こちらは、

Final KinZ  Zのみ」お持ちの方救済企画で、Zの前編です。

続き物なので、お心当たり無い場合は

この先はお避けいただいたほうが良いと思われます。

Z(この続き、後編)のアップ、再版予定は

ございませんのでご了承ください。

 

OKですね?

はい、後編しかなかったのにお買い上げをありがとうございました;

多少文章のカットしましたが問題はないはずです。

ちなみに、シリーズは

NEO→MIRACLE→TREND→FINAL→FINAL Zで全部です。

FINAL以外は単体で読めるようにした…つもりでした。

現在TREND以外は在庫無しです。

 

 

Final K in Z

 

 

情報交換の結果、全貌は明らか。

 

「あー…じゃあまあ、もういい加減決着つけないとやりにくくってたまんねえ会議は議決ってことで」

「…何だディアッカ、そのフザけた名前は」

「議決どころかまだ始まってじゃないですか」

「だからぁ、意思確認ってことだろ?やる事決まってんだから、名前なんか何でもいいだろ」

「いちいち名前なんか付ける必要あるか!」

「真剣路線で付けて欲しいです、まともアスラン保障委員会とか。
とにかくあの人絡みでない時の名実ともにエリートでエースなアスランをですね、
急いで常態にしないと」

「ほら見ろ、おかしな所から意見が割れてるし」

「いつ奴が名実とものエースになったっ?」

「そのへんは話が進みませんので次会で議題にするとして」

「あるわけ、次も?」

「…チッ…まあいい。」

「好きじゃない手段ですが、今回限りということで」

「一応確認するけどよ、アイツ実は女だったりする?

それ次第でアピールの仕方が変わってくんだけど」

「其れは無い。押し倒した時に確認済みだ」

「襲ったんですか!?ずるい!僕なんか見ただけで何もしてないのに!」

「…何かしたかったのかよ」

「子供がナマ云うな」

「二つしか違いませんよ。アスランとあの人とは一つです」

「嘘!アスランとタメ!?もっと下だと思ってたぜ?」

「ふん、アスランの奴が年相応の可愛げがない若年寄なだけだ。奴に限ったことでは無いが」

「ん〜?僕に何か言いたいことがあるんですかイザーク。ふふ」

「笑うなニコル…なんか薄ら寒くなる…」

「日に日に図太くなってることは確かだな」

「ええ皆さんのお陰です。それはそうとイザークは、あの人のこと可愛いとか思っちゃってるわけですかフーン」

「……勇気有んなぁニコル」

「…方針は確認した。勝手にやる。じゃあな」

「あっ厭そうな顔の割に、否定はしないんだ」

「期待を裏切らないヤツ…」

 

持つべきものは仲間と云う話…………?

 

たぶん。

 

 

 

「本当に良いんですか、ストライクの設定変えなくて?」

ヘリオポリスから軍艦兼避難船…逆も可?…として旅してきたアークエンジェル、格納庫。

トリコロールの機体を示して、キラ・ヤマトは仮初の上官に尋ねた。

無重力をいいことに、横になってふよふよ漂っていたフラガが閉じていた目を開ける。

連合に残された唯一のXシリーズ、ストライクは、乗り続けてきたキラに合わせて彼仕様にされている。コーディネイター用のOS、同プログラム、そしてスペック。

本艦隊と合流し、避難民たちは別のシャトルで地球に降りる。仮のパイロットだったキラも居なくなるこの後、搭乗する『ナチュラル』には…

「扱えないんじゃないですか…?」

謙遜しても仕方ない事実だったので、むしろ親切で申したてるキラである。

「んー、うーん」

フラガに視線を流され、苦笑したのは整備長のマードックだった。

「………まあ折角上げたグレード下げちまうのはなあ」

「だからって、なんで僕メビウスの調整させられてるんです」

キラの声が低くなる。いつもは大きい目も据わりがちだ。

合流したてで慌ただしい艦内、彼はなぜか最も忙しいメンバーの一人だった。

級友や避難民の皆さまは下船準備に励むのみだというのに。フラガは半昼寝状態だというのに!

「どうしてアークエンジェルの探知機調整とか姿勢制御プログラムと運動予測プログラムのブラッシュアップとか、おまけに迎撃システムのシュミレーションまで頼まれてるんですかっ? 艦隊から技師の人、派遣されてるんでしょう」

マードックが無精髭を撫でた。

「そりゃ、お前さんがこないだ、デキること証明しちまったからだろうなあ」

「これが最後、出来る限りやってもらっちゃえ☆て思われても、仕方ないんじゃないの?」

自分は無実みたいな…てゆうかその☆はなんだ…フラガの台詞にしかし、う。とキラが口ごもった。

ザフトの銀の佳人(笑)がAAの虜囚になった際。

キラはシステムに介入して好き勝手それをいじった。

軍艦で最新の機器で専門的設備、などの障害はものともしなかった。その手腕が買われてしまった、らしい。

それにしたって、そんな事をされたら再びの悪事を警戒して遠ざけるほうがむしろ普通じゃなかろうか。

いいことを知ったとばかりにこき使う方向に走るあたりが、AAの気質というか。罰を問わない代わりと云われれば、負い目があるキラも強く出れない。

今回に限ったことでは無いのだが―――

体勢を替えその脇に降り立ったフラガがちちちと指を振った。

「それに、愛機はつねに万全じゃないとどっか不安だからな。坊主、オレは生粋のMA乗りだぜ?」

「地に足が付いてないってことですか」
「坊主も言うようになったなあ…」

なぜか感慨深くフラガは首を振った。

「なんだかんだ言って、もう立派なパイロットだよ」

「いえあの、そんなことで認められても。」

あげくに温かい眼差しを向けられても。

連合の操縦士基準を他人ごとながら心配するキラの肩を、がし、とフラガが力強く掴む。

「オッケー、ならいっそこのままストライク専属で乗ってく〜?」

「ヤです」

いま言われたように、出来るならやらせてしまえという空気になっているなら、尚更キラは去らねばならなかった。

この艦の人々を嫌いではなかったけれど。

だからこそ、余計に。内心でキラは唇を噛んだ。

はぁぁぁ、と大仰にため息をつくフラガ。

「なんかなあ、職場に潤いを覚えちまうと、無くなんのがツラくってさー」

「う、潤い?」

「はぁ。そういやウチの連中も、機械一辺倒で来た鉄鋼オタクでも柔らかいぽわっとしたものは必要だとかほざいてましたなあ」

思い出すようにマードックが云う。キラは目を白黒させる。

「はぁ、え、ぽわって」

「だろー?」

肩に置いた手をぐるりと回し、フラガはキラを抱きこんだ。すっかり手馴れた動作であった。

「わ!?」

「あぁこの感触。サイズ。これを手放すのかー」

「ちょ、大尉」

『トリィ!』

飼い主の悲鳴を聞きつけたか、ドッグを遊覧していたトリィがフラガの頭に着地した――が、鷹は気にせずボヤき続ける。

「連合パイロットなんて、ザフトに比べるとむくつけき男どもが圧倒的に多いからさ。女性パイロットも増えちゃいるけど、暑苦しいオトコの世界よ」

「そりゃコーディネイターは年齢性別関係ないって言いますが」

デュエルの坊主もオスメス判んないくらいでしたなあ、と、本人が聞いたら眦を吊り上げて怒るだろう相槌のマードック。

「ザフトがMS戦強いのって、じつは綺麗どころが多くて士気が高いせいだったりして」

「いやそいつはないと思いますがね…」

会話の間も離してもらえないキラが、太い腕の中でじたばたしていると。

「セクハラですか?」

落ちてきた女性の声に見上げれば、艦長のマリューが漂ってくる。

離れたフラガが残像の出来る速さで首を振った。トリィが飛ばされキラの肩に逃げる。

「濡れ衣、濡れ衣!!」

「……そうですか?」

下向きの眼差しの迫力は、俄かパイロットを務めた少年に向きなおることで消えた。

傍らに着地したマリューは、いずまいを正して唇を開く。

「キラくん――今までありがとうね」

「え」

「あなたのおかげで無事ここまで来れたわ」

本当に有難う、と頭を下げられ、キラの瞳が揺れる。

「まあなんだ、世話になった…晴れて自由な民間人だ、地球に下りても元気でな」

「大尉…」

にやりと笑うフラガ。と、悪戯な光を宿す碧い眼が、近くなって…耳に囁くような声が落ちた。

「友達と仲直りしろよ」

キラは息を止めた。

それは。

どういう。

はっとしてマリューを見る。今の言葉は聞こえなかっただろうか。彼女は包みこむように、柔らかく微笑んで―――

「それであのね、――お願いしたプログラム、まだかしら?」

「わーん!」

一刻も早く艦を降りなきゃ、と思うキラだった。

 

 

 

「キラ…」

一方。

呟き方だけで誰だか判る、と一部で噂かもしれないエースパイロットは出撃準備をしていた。

地球近くで本隊と合流した目標艦をなお叩くべく、同じく味方と合流したクルーゼはモビルスーツ発進命令を下している。もちろんアスランも出る。

今回は命令通り…と言いたいが、本当なら人質交換で取りもどしたラクス・クライン嬢をプラントまで護衛する任務に就くべき身だった。これが翻ったのは、いつものアスランの回避弁論と当の対のお相手本人の『結構ですわ♪』があったせいらしい。

公私混同を避ける歌姫の名声が高まった――他方では『お土産を…連れて来て下さいませ…楽しみに』と婚約者にねだっていたという話もあるが、戦場であるという状況判断が出来ない貴人ではなく、文法的にも聞きまちがいだろう、とこちらはすぐ消えた。

「アスラン」

MSデッキに入ったところでニコルが寄ってくる。

なぜか、彼ともう二人の紅服同僚も今回はアスランの残留及び出撃に賛同していた。

「あのですね、援護しますから、とにかく」

忙しない状況だけあって、ニコルは時間を無駄にしなかった。

「――あの人を、ストライクをさっさと捕まえちゃって下さいね」

アスランは目を見開いた。

その困った同僚に肩をすくめてみせるニコル。

「イザークとディアッカも同意してます。気になってたまらない以上は始めに片づけて…任務も遂行して、きれいさっぱり整理整頓しましょう。僕ら4人の誇りに懸けて! もう、失敗したら軍法会議モノですからね?迅速確実に!ですよ」

「ニコル」

 アスランが真顔になった。

危うい橋を渡ってでも彼に協力するという同僚の瞳を、まっすぐに見つめ―――

「言われなくてもそのつもりだが」

「話した僕が莫迦でした――」

これまた真顔で返して、ニコルは自機に流れて行った。

「おかしな奴だ」

アスランが独りごちた。

不思議そうに。(この罰当たり。)

 

ところが、作戦は大前提が崩れていたりする。

 

 

 

 宇宙空間に熱量がまき散らされる。

 戦況は優勢。怒涛の攻撃で地球軍を圧倒するザフトMS部隊…の、主戦力たちは作戦失敗の予感を抱えていた。

『アレはどこだ!』

 MAと交戦しながら、苛々とイザークが叫ぶ。

『ストライク出て来ないですね…』

ブリッツのビームライフルを打ったニコルは端のモニターに目を投げた。

艦隊の奥、足つきが攻撃に出る気配が無い。

敵艦の砲をかわし応射したディアッカが、うんざりと首を振った。

『足つき温存かよ。そんなのアリ?』

どうやら地球軍は、あの艦の地球降下を第一目標としているらしい。捕獲にせよ破壊にせよ、相手がいないのでは手も足も出しがたい。 が。

『アスラン?』

ニコルはモニターを飛翔する赤い影に気づく。

 

―――その戦場でキラを見つけられるとしたら、もちろん彼しかいなかったのだ。

 

 

戦闘の衝撃。

「きゃー、やーっ!」

「お、落ちつけ、大丈夫ミリィ攻撃じゃないって!」

「いやだ〜いやだ〜もう駄目だ〜落ちる〜」

「カズイ止せうるさい!」

 ヘリオポリス学生組は、騒がしい脱出シャトルに…もとい、脱出シャトルに乗って騒いでいた。

他の避難民もどよどよとしているのだが、何だかここが一番うるさい。

AAのブリッジではもっと怖い目にあった。同じ宇宙空間に在るとはいえ、攻撃も砲撃もこの船を狙うものでは無い。確率的に安全度は高い。

しかし、軍艦と輸送目的の小型機では安心度が段ちがいだった。

『一回大型車に乗っちゃうともう軽自動車に乗れない』の法則に同じかもしれない。(違うかもしれない。)

ちなみにアルスター親子は地球軍VIP側として別便に乗っており、こちらにはいなかった。

「大丈夫、大丈夫だって…だよなっ?」

「う、うん」

トールの同意を乞うまなざしに、キラは顎を引いてうなずく。とたん、横揺れの衝撃が襲って船内に不安げな声が満ちた。

(でも揺れすぎじゃないかな…)

窓の外には戦闘が繰り広げられている。少し前までの乗艦を気遣わしげに見てしまう己にふるふると首を振って、キラは正面、操縦席のあるほうをうかがった。

シャトルは純粋に飛行用のものであるから、刺激には弱い。

その程度で翻弄される機体が、たとえば流れ弾をよけたり出来るのだろうか?

もういちど窓外を見る。戦闘の光がさっきより迫っているのは気のせいか。地球軍が押し込まれているのは。

地球がノロノロと近づいている。

大気圏に突入するのが先か、戦闘区域が追いつくのが先か…考えるうちに、壊れたMAの一部が視認出来る近さを飛ばされて行った。

震動、急制動、照明の明滅と悲鳴。

「キラっ?」

 友の驚きを背に、シートベルトを外してキラは正面へ跳んでいった。

 

 

戦場を華麗に舞い、AA手前の駆逐艦に肉薄したイザークは、横目に信じがたい光景を見た。

『おぉ?凄いなあれ』

同じ光景を見たらしいディアッカが暢気に口笛を吹く。

ジンがかわしたミサイルの爆発余波を、小さなシャトルが急加速で回避、半回転して破片をかわしながら己を立て直す、その動き。

イザークはデュエルに制動をかける。改めてモニタにズームした脱出艇が、MA並みの動きで宙を飛ぶ。いや、その操縦がMAなどよりよっぽど優れた動きであることが彼らには看てとれた。

『…まさか』

トリコロールの機体が脳裏を掠める。そして――栗色の髪紫の瞳のその乗り手。

『アイツかっ?』

確信する視界を、被弾した連合艦が塞いだ。

 

 

警告音が鳴りっぱなしだ。

常灯は切れて非常用に切り替わる。赤く染まるシャトルの操縦室。

持っていかれそうになる操縦桿を必死に操作しながら、キラは歯をくいしばった。

強引に操縦を代わってもらった兵士も、横で呻きを上げている。

遠くない距離で戦艦の起こした爆発は、致命的な揺れをシャトルに与えた。すでに地球の重力圏、大気圏への突入角はかなり悪い。

だから、普通に移動するためのシャトルなのだ。戦闘の衝撃をくぐり抜けて条件の悪い大気圏突入をするようには作られていない。

無茶な回避を繰り返したせいで推進剤の余裕もなくて、

墜ちるように、シャトルは青い星に飛ぶ。

そして.

 

どこからともなく飛来した、真紅の機体。

 

『何でアイツがあんなとこにいるんだ!?』

『えーと、どっちの話?』

『両方だ!!』

ディアッカに怒鳴りつつ、実はいささか安堵するイザークもいる。

あの艦でのささやかな交流は、引き金を引く指に些少のためらいを与えるから。

イザークとて、どんなに気の抜ける相手だろうが、らしくなかろうが、連合の軍人なら割り切れる。割り切る。しかし。

無防備な同胞のパイロットも、民間人も、中立国の避難民も、彼の仮想敵とはかけ離れた存在。

そう、たとえコーディネイターへの幻の動物ツチノコを追え!的偏見に腹立っても。高飛車女とのやりとりが喧嘩口調でも。変な格好させられても――――――やっぱりためらわないような気もしてきた――どっちだ―――。

『あっ』

ライフルを放ちながら追いついてきたニコルの自失の声。

地球の引力に捕まって大波に翻弄される魚のような脱出艇に、変形した真紅の僚機が追いつき、取りついたのだ。(蛸が獲物を捕らえるようだと実は思った彼らだが、誰一人口には出さなかった。)

 

シャトル一機を抱えるように庇い、大気圏降下していくイージスを三人はなすすべも無く見送った。

 

 

警告音が掻き消える。

赤い視界も忘れる。

ひときわ大きな衝撃の後、何かが無理矢理シャトルを捻じ曲げるような、そんな体感があって……

「つ、捕まえられた!?」

横で喚く他人の存在も、意識から外れた。

成層圏を抜け、視界は青となる。前方に取り付いたMSによって、わずかながら姿勢が矯正される。減速が掛かる。

「ア―――」

誰が何のために何をしているか、正しく理解するキラは。

暴れる操縦桿を操りながら上りかけた音を止めた。

 

この期に及んで助けてくれる、心が痛かった。

 

 

 

分解することなく地表に不時着したシャトルから、キラは飛び出す。

赤いMSはそれを受け止めるような位置で沈黙したままだ。

緑深い降下場所の景色も目に入らず、コックピットまで辿りつき、苦労して開けた。濃紅のパイロットスーツ姿がシートの上で力を無くしている――

「…アスラン!」

夢中で身を乗り入れる。手を伸ばし、ためらって、震える唇でまた呼ぼうとして凍りついて。

ヘルメットの中で堅く閉ざされた目蓋が障壁となって、キラは触れる勇気が出ない。

『トリィ!』

機械鳥が肩に舞い降り、呪縛がとけた。

「キラ!」

追いかけてきたトールの声を聞く頃には、まだ熱いコックピットからアスランを助け出せていた。

驚きに息を呑む気配がする。

「ソイツ、」

「トール、救急キットと水を探して」

疑問を遮ってキラは言った。もどかしげにヘルメットを外そうとする。

尋常で無い様子にトールは気圧される。

その、子供の癇癪のように苛立った余裕の無さは、キラに見たことのないものだったのだ。

「キ…」

「早く!」

搾り出すような。悲鳴に似た苦渋の懇願。

「友達なんだ…!」

「――判った!」

取り去ったヘルメットから零れる夜空色の髪に、走る足音ももうキラは聞こえない。

久々に見る幼馴染の、男らしさを増した顔。

その秀麗な面は紅潮し、眉間は歪められている。

調べたかぎり、ガンダムには単独で大気圏突入のスペックがたしかにあった。だがソレはよけいな荷物を抱えて行う為じゃない。コックピットもあんなに加熱されていた。

何より、性能上出来るとはいえ、初めての試みであったろうに。

アスランの肌を普通じゃない汗が流れ落ち、唇から苦しげな息が洩れた。明らかに身体の負担はオーバーしている。

焦燥を紫瞳に宿し、キラが唇を噛んだ。

「莫迦…!」

どうして、こんな。

一歩間違えば命すら危ういのに!

どうして―――もちろん。

 

キラのためだ。

 

きつく目を瞑った所に、トールの足音が戻った。

 

 

熱。

身の内から、後から後から涌いてくる熱。皮膚の下に籠もり暴れ狂い、大気に溶けて周囲をも熱し、けして解消されない熱。

みず。水。何か癒すものを。潤すものを。鎮めるものを――

 

請うアスランの渇きを癒し、潤し鎮めるなにかが寄り添う。

求めに応じて注ぎ込まれる、

天の滴。

 

 

乾ききった唇が、微かに動いた。

重なったその箇所からそれを悟って、キラはゆっくりと顔を上げる。

「キ………?」

薄っすら開いた新緑の瞳は、だけど未だ紗幕が掛かっている。

「―――――アスラン…?」

鼻の奥が痛んで、呼び声が震える。潤むのを抑えられない眼で見守っていると、うかされたように掠れ声が洩らされ―――

「夢なら…」

それだけで、瞼は閉ざされた。

夢なら。そうだ、夢ならどんなに良いか。

伸ばされた手を拒み、呼ぶ声に首をふって、敵として対峙したのも。

僕のせいで君が苦しんでいるのも。

悄然としていたキラは思考を切り替え、手に持った飲料水パックを口にあてた。水を含む。もちろん自分で飲むためでは無い。

今は出来ることをするのみだ。

 

 

 

3年、離れていた。こんなに離れるつもりは無かったのに。あの日から、もう二度と。

それは平凡な日常の掠り傷。

アスランは夢の中、時を6年ほど遡る。

キラが学校に来なかった。

自宅を訪ねても誰も出なくて、母に聞いても答えは得られず。

釈然としないまま一日過ぎ、動揺しながら二日過ぎ、不安な三日目、ヤマト一家はオーブという所に里帰りしている、と母が告げた。連絡があったのだと。

不自然な状況だったけれど、もうすぐ会えると云われれば安堵の強さに他はどうでも良くなった。

子供であった。現在思えば、かえすがえすも口惜しい。

五日目、永遠に等しいひさびさの再会に、キラはとてもすまながった。

『お母さんの実家に急に帰らなくちゃならなくて』

かなり急で、連絡も出来なかったのだ。そう云いながら、怯える瞳に浮かぶのはアスランを不快にさせたのでは無いかという心配。

キラを前にしたらあらゆるマイナス感情は吹き飛んで、ただ喜びがアスランにはあった。アスランは素直にそれに従って、安心させるようにキラの頭を撫でてその件を終わらせた、つもりだった。

たった数日で痩せて見えたキラが気がかりだったせいもある。

その夜、キラの乞うままアスランはキラの部屋に泊まった。

『一緒に寝ようか』

と云ったらうなずいたので、キラのベッドに入った。

『手を繋いで寝ようか』

と聞いたらうなずいたので、小さな手を握り締めた。冷たい手をしていた。

いつもなら、そんな幼子では無いと少しは膨れてみせるのに。

繋いだ手を引き寄せるようにくっついたら、暗闇のなか凝っと見つめてくる菫の瞳。胸に抱きこむとすり寄ってきてちょっと震えた。

『…アスラン』

在所を確かめるようにキラはアスランを呼んだ。

『アスラン』

『ここに居るよ、キラ』

か細い声に返事をかえし顎をくすぐるキラの柔らかい髪に触れた。

繋いだ手が温もって、キラの震えがおさまるまでアスランは眠れなかった。

キラも寂しかったのだと気づいて胸が温かくなった。

温かくなったら、どんなに凍えきっていたのかが解かった。

それでもう、完全にアスランは決めたのだった。前からモヤモヤと、夢のように描いていた願いをより具体的に、現実的に、徹底的に。

キラは生涯共にする相手だ。

 

そう、それは伴侶。

 

良くも悪くも一意専心なアスラン・ザラの人生計画が定まった夜であった。

 

そんなアスランが、真相を知ったのはプラントに…本当に、里帰りしたとき。

父親が自分の身辺を報告させているのは知っていた。

だから稀に帰省すると、父のデータベースに忍びこみ、キラを誹謗するような報告が残されていないかどうか検閲するのが日課であった。…あまり冷静なツッコミはしないであげて欲しい。

閑話休題。

目を見張る記録があったのだ。

 

あの空白の五日間、キラ・ヤマトは。

 

誘拐されて、月を離れていた。

 

アスラン・ザラと間違えられて。

 

犯人は複数、プラントの親地球派。

背後関係やキラの戻った経緯など、詳細はもっと厳重なデータの海に沈んで、さすがにアスランも手が出せなかった。

人違いで誘拐なんて、無能で低脳で愚劣極まる不手際っぷりで犯人グループは息をする価値も無い、というか手ずからバラしたうえ細切れにして外宇宙の旅へ送り出してやりたい。

真っ先に覚えたのはそうした怒りだった。

ついで、この件に関し自分の周りの全員が欺いていたことに憤りを感じた。

大人たちは、キラも、誰も事実を教えてくれなかった。

確かに教えられてもアスランに何が出来たわけではないけれど。キラの両親は彼を見て、どんな気持ちだっただろう…。

自らの力無さに怒り、打ちのめされたアスランは、しかしすぐに訝った。

(変だ)

レノアは優しい母だが、甘い人ではない。

忙しい身をおして好物のロールキャベツを作ってくれても、滅多にやらないものだから前衛流刺激派な出来上がりになって、それでも残すのは許さない、みたいな。

話がそれた。

アスランの代わりに親友が危険にあったのなら…想像するのもイヤだが、キラが帰って来なかったケースはともかく…キラが戻った後にでもそれを伝えるのではないか。どうして何も云ってくれなかった?

キラもまた、どうして何も明かしてくれなかったのだろう。教えるなと云われたのだろうか、たとえばアスランの父に。

(だが)

そんな目にあって、厭々ながら沈黙をも強いられたなら。

アスランと距離を開けたっていい。キラにはその権利がある。けれどそうしなかった。

アスランは答えを識っていた。

同時に、事が済んでも誰もなにも言わなかった理由も。悟っていた。

 

きっと、キラ自身が口止めした。

 

幼い声が聞こえた気がする。(アスランには云わないで。)

 

優しい、頸いキラ。あの夜、アスランに寄り添って眠った行為。

 

あれは、アスランを守っていたのだ。

 


  

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