Final KinZ Z(後編)のページ抜けがあったというメールを頂まして・・・。
ちなみにトータルでは2件目なのですが、現在は本がまったくないためお取替え不可能でして、
サイト掲載にて失礼いたします。申し訳ございませんでした。
今回の申告はこの辺りで。完売してから結構経ってるのでもう無いと思うのですが…もし他に
ありましたらお申し出下さい…。 (これに限らず別の本でも。)




「おい!」

 蹌踉とした足取りを、くっきりと明瞭な声が呼び止めた。

 キラが顔を上げた時にはもう寄ってきたカガリが見張りを追い払っている。

「お前、なに連れてかれてるんだ!」

「―――ごめん」

「謝るな!拒むわけにもいかないだろう!」

「………」
「――なあ」

 滅茶苦茶な話術(?)でキラを黙らせておいて、至って真顔でカガリは訊いた。

「確かめたいんだけどさ…お前、ヘリオポリスでアレ…MS…関わってたのか?」

 率直な問いかけにキラも表情が消えた。

 それじゃあカガリとさっきの人たちとは別口なのかな、とちらと思う。

「今のモルゲンレーテの奴ら…お前にアストレイの改良をやらせるつもりなのか」

「…そういうことになるみたいだね」

 どちらも。

「っ、何でだ?!」

「…って?」

「その…誰かにやれって言われたのか…」

 ためらうように流れる語尾に、ああ、とキラは顎を引く。

「今はね」

「…ヘリオポリスは違ったのか?」

「ガンダムのほうは――気が付いたのはずいぶん経ってからかな…それまでもゼミの先生の

頼まれ物で何かのデータの解析したり、構築式作ったりしていたんだけど…それが」

 モビルスーツ開発用だったのだと。

 伏し目がちに説明されて、カガリは大きく息を吐き出す。

 そのまま方向転換して歩きはじめるから、キラは急いで後に続いた。付いて

いかなかったら困るところなのだが、まあキラもそこで逃走しようと考える性格ではない。

 キラが元いた部屋まで来て、椅子にどすんと腰掛けて、やっとカガリの口が開く。

「――私はっ、」

 たくさんの云いたい事が喉をふさいで逆に言葉が出てこない。そんな喋り方。

「探してる奴がいてっ…そいつはヘリオポリスで連合から依頼されたMS作りに

加わっているということだったから…」

 キラは首をかしげた。

「探してる人?」

「う―――」

 きっかけは一枚の写真。

 カガリの知らない女の人と、男女の赤ん坊が写る写真。

 血を分けたきょうだいがいて。

コーディネイターゆえに手放され、なのにそれゆえMS作りに使われている、と。

それがカガリの知った話。

あんまりじゃないかと思った。

とはいえ、初めは存在も信じ難いと思っていたのだけれど…その子は誘拐事件に

巻き込まれた事があって、育ての親の頼みでウズミが極秘で部下に助けさせたとか、

信憑性をもった噂を聞いたりすると居ても立ってもいられなくて、ヘリオポリスに

出向いた。MSの件と共に確かめる機会だと考えたのだ。

けれど、いくら直球がスタイルの彼女でもキラにそんな打ち明け話は出来なかった。

突然すぎるし、知らせる必要があるのかさえ判断に迷う。キラが何も知らないなら

知らせてはいけない気もする。

「それは――それはもういいんだ。つまり…お前は?」

「僕?」

 いきなり変わったような話題に不意をつかれる。

「お前はどうしたかったんだ?ゼミでやってた研究、そんなに面白かったのか」

「―――――」

「アストレイの改良やってみたいと思うのか?」

キラは胸襟をこじ開けられたような気分で黙りこんでいた。

 最近、やはりこんな気持ちになったなと気付く。AAを降りるちょっと前だった。


 …友達と仲直りしろよ。



 フラガはどこまで知って云っていたのか。

幼馴染がプラントにいて、ザフト兵で、モビルスーツに乗って、自分たちを

攻撃している、そのどこまでを。

キラが彼を殺せないことまで?

知りながらキラをMSに乗せていたからお互い様、とでもフラガは云うのかも

しれない
。 問題はそこじゃない。

オーブは彼の住まう国で、両親が居り、友達も出来た。

戦乱になど永遠に巻き込まれないで欲しい。そのための力になるのなら、キラだって

何かしたいとは思う。

だけど、良いのだろうか。

キラの一番が決まっている限り、裏切っている気持ちが治まらない。

最後に裏切るかもしれない。

彼の婚約者や仲間を逃がしたように。

(そんな気持ちでいいのかな)

 アークエンジェルでは理由があった。キラが戦わなければ『絶対に』艦は沈み、

友人たちも命を失ったろう。

 そうやって、消去法の選択しかキラは持っていない。


「オーブがオーブでいるために、必要なものなんだ」

 少女の、言いきる姿が眩しいとキラは思った。


 キラがキラでいるためには?何が必要なのだろう。



 静まった空気に、突如異音がこだました。

『トリィ!』

「は?」「あ」

 カガリが目を丸くした。キラの胸元から、手品みたいにむくむくと鳥…に見えるもの…

が出てきたのだ。

『トリィ』
「何だ…ペットロボット?」
 訊かれてこくりとキラは頷く。

「友達―――」

 友達なんだ。

 友達に貰ったんだ。

 声が、震えた。

 キラの前に停まってちょんと首をかしげる鳥。翠の羽は彼の色…。もう体調は戻った

だろうか。オーブを出ただろうか。

 二度と会えないかもしれない彼。



「………アスランに会いたい」

「え…」

アスランに会いたい―――

ぽつりと無意識みたいに、けれど繰り返された言葉。

儚く霞んで見えるその姿に慌ててカガリは口走った。

「な、泣くなよ!」

「え?」

「あれ?」

 顔を上げたキラの頬は乾いている。

カガリは逆にびっくりした。

「泣いてない!?」

 そんな莫迦なと思った。絶対泣いてると思ったのに!

「なんで!泣けよ!」

「えっ」

この理不尽な要求にキラは目を丸くする。

「でもいま泣くなって…」

 言いかけて唇を閉じた。俯きがちに目をそらした少女を、しばし見やる。

「泣かないよ」

 ふわりと。柔らかく肩を包む毛布みたいな声がカガリに掛けられた。

「大丈夫だから。泣かないで…?」

「な…」

 赫っと顔をあげたカガリは、視界が潤んでいることにその時気がついた。感情の

昂ぶったせいだと思いたい。

「ごめん、変なこと言ったみたい。さっきのは元々もう、会えないひとだよ」

 安心させるようにキラが笑みを浮かべて自分に手を伸ばすのを、呆然と見守る。

 ヘリオポリスで別れてからずっと気になっていた相手。

 自分のせいで逃げられなかったんじゃないかと…逃げることは出来たようだが、

何故かMSなんか操縦していて。「アスラン」ともきっとその時別れたのだろう

コイツは、恨み言も云わず。

 羽毛みたいに髪に触れて撫ぜたものがキラの繊手だと、意識はしても状況が

飲みこめない。

 今にも泣きそうだったくせに。

 いや絶対泣いてたくせに!

 何でこんな微笑みで他人を気遣ってるんだ?

 何で私は慰められてるんだ!?

 やり場の無い憤りにカガリはすっくと立ち上がった。

 突然の行動にももう慣れたのか、キラは静かに見守っている。

「今度こそだ、待ってろ!」

 ヘリオポリスの人間なら会えるだろう。キラの状況さえ何とかすれば。

 岩のような決意で、またもカガリが部屋を飛び出そうとしたとき。

『トリィ!』

「うわ」「あっこら」

 バササ、と羽ばたいたトリィが舞い上がり、開いた扉を抜けていく。

「トリィ!」

 焦った素振りでキラも立ち上がった。



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